建築家の押野見邦英さんは、35年間住み続けたマンションを離れ、新築物件へ転居することに。同じく建築家の奥野公章さんが設計する魅力的なコーポラティブハウス(計画の原案を基に入居希望者を募り、数世帯が集まって建築家と共につくる集合住宅)の建設計画に、いち住み手として、また建築家としてコミット。
巧みな植栽計画による木陰と、独自の審美眼によるインテリアを楽しむ、上質な住空間をつくり上げました。
コンセプトは「リーフィな木陰で暮らす」
押野見さんが新居で思い描いた理想のライフスタイルは、「リーフィな木陰で暮らす」。
「とはいえ、ただ広いテラスと植栽があればいいわけではないんです。この建物では、地下から3階まで、複数の階層と斜めの地形を使って立体的に植物が配されています。いわゆる『ガーデニング』ではなく、もっと自然環境に近いイメージで計画されているので、豊かなレイヤーが生まれています」
そのような建築全体のプランもあって、押野見さんは木々の下の心地よさを得られる地階の住戸を選びました。
中庭には実にさまざまな種類の植物が植えられています。下から上へ、手前から奥へと重層的に伸びやかに生い茂り、野趣に富みつつ洗練された美しい風景を描いています。
木々の葉が目線よりも高い位置にあることによって、リーフィな木陰で木漏れ日や風を感じながら暮らせる、穏やかなコートハウスが実現しました。
フランク・ステラのアートワークがテーマになったインテリア
室内には、押野見さん自身が厳選した内装仕上げによって生まれた端正な空間が広がり、以前より愛用してきた家具や小物が生き生きと配されています。
このインテリアのテーマとして掲げたのは、戦後アメリカの抽象絵画を代表する画家、フランク・ステラによる絵画作品だそう。
「フランク・ステラが幾何学的な平面作品から出発しミニマル・アートの第一人者となったのちに、転機を迎えて描いたのがこの作品です。平面である絵画のなかに曲線定規などの物体を取り入れ、豊かな立体感を生み出しています。ミニマルから脱した自由さや躍動感に感動しました。
インテリアも、1つの空間のなかにあるさまざまな要素が立体的に重なり合って見えてこその豊かさがあり、それをいかに調和させるかが肝。フランク・ステラは1つの画面のなかでここまでの域に到達したということに、共鳴し、励まされてきたのです」